前回は、「食事療法は制限ではなく設計である」という視点から、食と体の関係を整理しました。
では、その設計したエネルギーは、体の中でどう使われるのか。
——そこで出てくるのが、「運動」というもう一つの要素です。
食事だけでは完結しない。一方で、運動もまた「気合い」や「根性」の話では続かない。
なぜ運動が必要なのか。
どれくらいやればいいのか。
そして、現実的に続けられる方法はあるのか。
今回は、「運動が血糖に効く理由」を、仕組みからひも解いていきます。
「食事療法」だけでは足りない

左がトニーさん、右が牧
トニー:食事の話をしていて、「あ、これは設計なんだな」って自分の中で腑に落ちたんですけど、そうするともうひとつ気になってきて。運動って、どれくらい重要なんですか?
牧:結論から言うと、かなり重要です。食事と運動はセットで考える必要があります。医療の中でも「運動療法」として、治療の柱のひとつになっています。
トニー:やっぱりそこもセットなんですね。
牧:はい。食事だけ整えても、使わなければ意味がないですし、運動だけしても、入ってくるものが乱れていれば整わない。両方でひとつなんです。
トニー:なるほど。
牧:そして運動には、大きく分けてふたつあります。有酸素運動と、無酸素運動です。
トニー:歩くのは有酸素運動ですよね。
牧:そうです。酸素(O₂)を使ってエネルギーを消費する運動ですね。今日ここまで歩いてこられましたよね。
トニー:はい、歩いてきました。
牧:あれがまさに有酸素運動です。体の中で酸素を使いながら、エネルギーをじわじわ消費していくタイプの運動です。一方で、筋トレのように、瞬間的に力を出す運動が無酸素運動です。こちらは酸素をあまり使わずに、筋肉に負荷をかける運動になります。
トニー:同じ運動でも、役割が違うんですね。
牧:そうなんです。そして、その違いを理解するうえで一番分かりやすいのが、「どれくらいエネルギーを使うのか」という視点なんです。
運動すると「食べられる量」が変わる
牧:例えば、トニーさんが一日1,500kcal食べるとしますよね。
トニー:はい。
牧:その状態で、30分歩いたとします。体重60kgの人だと、だいたい110kcalくらい消費します。
トニー:そんなに細かく分かるんですね。
牧:数字を入れれば、今はすぐ調べられますから便利ですね。
トニー:なるほど。
牧:つまり、1,500kcal食べて、110kcal消費すれば、その分だけ「余裕」が生まれるんです。
トニー:1,600kcalまで食べてもいい状態になる。
牧:そういうことです。ここで、もうひとつ大事なポイントがあります。
トニー:何ですか?
牧:運動は「いつやるか」でも効果が変わります。特におすすめなのが、「食後」です。

トニー:食後ですか。
牧:はい。食事をすると血糖が上がりますよね。そのタイミングで体を動かすと、筋肉がその糖をそのまま取り込んで使ってくれるんです。
トニー:なるほど、上がったものをその場で使う。
牧:そういうイメージです。逆に、食べてすぐ座る、寝るという状態だと、血糖が上がったまま使われにくくなる。だから体に負担がかかるんです。
トニー:同じ運動でも、「いつやるか」で意味が変わるんですね。
牧:そうです。激しい運動じゃなくてもいいので、食後に少し歩くだけでも効果はあります。
理想は「1万歩」。でも現実は「積み上げ」でいい
牧:一般的には、元気な方であれば「1万歩」が目安です。
トニー:7kmくらいですね。
牧:はい。時間にすると、だいたい100分くらい歩く計算になります。
トニー:結構きついですね。
牧:そうなんです。医療機関でもよく「1日1万歩」と言われますが、これって分解すると、「10分で約1000歩」→「100分で1万歩」という考え方なんです。
トニー:なるほど、そうやって分解すると見え方が変わりますね。そういえば、今日どれくらい歩いたかなって見てみると、スマホでカウントされてるじゃないですか。今日が9,038歩で、6.1kmでした。
牧:めちゃくちゃいいですね。
トニー:昨日は7,700歩くらいで5.2km。その前は1万4,000歩で、9.7kmでした。日によって結構ばらつきがありますね。
牧:それでいいんです。毎日きっちり1万歩じゃなくていい。そうやって日ごとの積み重ねで見ていくことが大事なんです。
トニー:なるほど。
牧:ただ、これを毎日やるのは現実的には難しい人も多い。だから大事なのは、「一気に100分歩く」ではなくて、10分を積み重ねることなんです。例えば、朝に10分、昼に10分、帰りに20分。それを積み上げていけばいい。連続でなくても、トータルで1万歩いけば十分効果が期待できます。
トニー:それならできそうな気がします。
牧:むしろ医療としても、「いきなり理想を目指す」より、「続けられるラインを積み上げる」ほうが、結果的に効果が出やすいんです。
筋トレは「投資」。筋肉は代謝を変える

牧:ここで大事なのが、無酸素運動の考え方です。
トニー:筋トレですね。
牧:はい。例えばスクワットを100回しても、消費カロリー自体はそれほど大きくありません。
トニー:きついのに。
牧:でも、ここがポイントで。無酸素運動は「カロリーを消費するためのもの」ではなく、「筋肉を増やすためのもの」なんです。
トニー:筋肉を増やす。
牧:筋肉が増えると、基礎代謝が上がります。つまり、何もしなくても消費するエネルギーが増える。
トニー:それは大きいですね。
牧:そうすると、同じ1,500kcal食べても太らなくなる。あるいは、もう少し食べても維持できるようになる。
トニー:さっきの話でいうと、「貯金ができる」感じですね。
牧:まさにそのイメージです。
トニー:なんか、ここまで聞いていて思ったんですけど、急に話が明るくなってきましたよね。「しめじ」(第2回)の話を聞いたときは、「どれだけ恐ろしい話なんだ……」って思ってたんですけど。
牧:怖いですよね。
トニー:でも今、カロリー消費と食べる量の関係が見えてきて、「こうすればいいんだ」っていう道筋が分かるというか。無酸素運動で筋肉がついたら代謝が上がって、「貯金ができる」っていう話も、すごく面白いなと思って。これ、何かの授業で教えたほうがいいレベルですよね。予防医療そのものだなって思いました。
牧:まさにそうなんです。
トニー:やっぱり、こういうロジックが分かると、行動も変わりそうですね。
牧:そこが一番大事なところですね。この考え方を知っているかどうかで、日々の選択が変わってきます。
運動は「我慢」を減らし、「選択肢」を増やす
トニー:今日話を聞いていて思ったんですけど、自分がやっていた食事の見直しって、医学的な根拠があったわけじゃなくて、ほとんど感覚だったんですよね。
牧:はい。
トニー:糖尿病かもしれないっていう考えのもと、食事を制限して、カロリーを抑えて、体重を落とす。それで体調自体は良くなったし、実際に3ヶ月くらい続けて、かなりコンディションも上がったんです。
牧:実感として変化があったんですね。
トニー:そうなんです。ただ、「じゃあその根拠は何か」と言われると、自分でも説明できなくて。今日こうして話を聞いて、食事で整えて、運動で使う。その両方があって初めて成り立つんだなと、すごく腑に落ちました。
牧:そうですね。
トニー:無酸素運動で筋肉をつければ代謝が上がる。そうすると、食べられる量も増える。つまり、「制限する」だけじゃなくて、「維持するか、さらに良くするか」を自分で選べる状態になるってことですよね。
牧:その通りです。
トニー:これってすごく大きいなと思っていて。結局、今までは怖さから引き算していたけど、本当は「どうやって選択肢を増やすか」なんだなと。
牧:いい視点ですね。
トニー:逆に言うと、それができるのは、まだ健康なうちだけなんですよね。状態が進んでしまったら、選べること自体が減ってしまう。
牧:はい。だからこそ早い段階が大事です。
トニー:だから今のうちに、食事・睡眠・運動を生活の中で整えていくことが重要なんですね。
牧:まさにそこです。
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食事を整えること。そして、体を動かすこと。どちらか一方ではなく、その両方が揃ったとき、初めて「コントロールできる状態」が生まれる。
それは我慢ではなく、選択肢が増えていく感覚でもあります。
次回は、その先にある「継続」の話へ。どうすれば無理なく続けられるのかを考えていきます。
(対談 第6回(最終回)につづく)


