なぜ「食後に動く人」は太りにくいのか――筋肉は最大の「糖の受け皿」だった【対談#5】

前回は、「食事療法は制限ではなく設計である」という視点から、食と体の関係を整理しました。

では、その設計したエネルギーは、体の中でどう使われるのか。

——そこで出てくるのが、「運動」というもう一つの要素です。

食事だけでは完結しない。一方で、運動もまた「気合い」や「根性」の話では続かない。

なぜ運動が必要なのか。

どれくらいやればいいのか。

そして、現実的に続けられる方法はあるのか。

今回は、「運動が血糖に効く理由」を、仕組みからひも解いていきます。

【トニーさんと牧について】

「むすび在宅ケアクリニック京都」を2025年10月、京都市中京区で開業した総合内科専門医・牧隆太郎。在宅医療の現場で日々さまざまな患者さんと向き合う彼が、定期的に足を運んでいる店のひとつが、一条通・紙屋川沿いにあるイタリアン「イルピアット」です。

オーナーシェフとして腕を振るうのは、トニーさんこと水谷啓郎さん。料理人として日々食と真摯に向き合うなかで、自身の体調や数値の変化から「もしかすると自分は糖尿病の可能性があるのではないか」と意識するようになっていました。診断が下されたわけではありません。しかし、忙しさや年齢だけでは説明しきれない違和感が、確かにあったといいます。

そうした実感をきっかけに、トニーさんは2025年11月から、自分自身の体を使いながら、食事や生活のあり方を見直す「小さな実験」を始めました。糖尿病と向き合う人でも、「おいしい」と感じられるイタリアンはつくれるのか。試行錯誤を重ねながら、料理と体調、数値の変化を行き来する日々を続けてきました。その取り組みは、2026年2月から「塩分控えめのメニュー」として店の中でも本格的に展開されるように。

「食事療法」だけでは足りない

左がトニーさん、右が牧

トニー:食事の話をしていて、「あ、これは設計なんだな」って自分の中で腑に落ちたんですけど、そうするともうひとつ気になってきて。運動って、どれくらい重要なんですか?

牧:結論から言うと、かなり重要です。食事と運動はセットで考える必要があります。医療の中でも「運動療法」として、治療の柱のひとつになっています。

トニー:やっぱりそこもセットなんですね。

牧:はい。食事だけ整えても、使わなければ意味がないですし、運動だけしても、入ってくるものが乱れていれば整わない。両方でひとつなんです。

トニー:なるほど。

牧:そして運動には、大きく分けてふたつあります。有酸素運動と、無酸素運動です。

トニー:歩くのは有酸素運動ですよね。

牧:そうです。酸素(O₂)を使ってエネルギーを消費する運動ですね。今日ここまで歩いてこられましたよね。

トニー:はい、歩いてきました。

牧:あれがまさに有酸素運動です。体の中で酸素を使いながら、エネルギーをじわじわ消費していくタイプの運動です。一方で、筋トレのように、瞬間的に力を出す運動が無酸素運動です。こちらは酸素をあまり使わずに、筋肉に負荷をかける運動になります。

トニー:同じ運動でも、役割が違うんですね。

牧:そうなんです。そして、その違いを理解するうえで一番分かりやすいのが、「どれくらいエネルギーを使うのか」という視点なんです。

 

運動すると「食べられる量」が変わる

牧:例えば、トニーさんが一日1,500kcal食べるとしますよね。

トニー:はい。

牧:その状態で、30分歩いたとします。体重60kgの人だと、だいたい110kcalくらい消費します。

トニー:そんなに細かく分かるんですね。

牧:数字を入れれば、今はすぐ調べられますから便利ですね。

トニー:なるほど。

牧:つまり、1,500kcal食べて、110kcal消費すれば、その分だけ「余裕」が生まれるんです。

トニー:1,600kcalまで食べてもいい状態になる。

牧:そういうことです。ここで、もうひとつ大事なポイントがあります。

トニー:何ですか?

牧:運動は「いつやるか」でも効果が変わります。特におすすめなのが、「食後」です。

トニー:食後ですか。

牧:はい。食事をすると血糖が上がりますよね。そのタイミングで体を動かすと、筋肉がその糖をそのまま取り込んで使ってくれるんです。

トニー:なるほど、上がったものをその場で使う。

牧:そういうイメージです。逆に、食べてすぐ座る、寝るという状態だと、血糖が上がったまま使われにくくなる。だから体に負担がかかるんです。

トニー:同じ運動でも、「いつやるか」で意味が変わるんですね。

牧:そうです。激しい運動じゃなくてもいいので、食後に少し歩くだけでも効果はあります。

 

理想は「1万歩」。でも現実は「積み上げ」でいい

牧:一般的には、元気な方であれば「1万歩」が目安です。

トニー:7kmくらいですね。

牧:はい。時間にすると、だいたい100分くらい歩く計算になります。

トニー:結構きついですね。

牧:そうなんです。医療機関でもよく「1日1万歩」と言われますが、これって分解すると、「10分で約1000歩」→「100分で1万歩」という考え方なんです。

トニー:なるほど、そうやって分解すると見え方が変わりますね。そういえば、今日どれくらい歩いたかなって見てみると、スマホでカウントされてるじゃないですか。今日が9,038歩で、6.1kmでした。

牧:めちゃくちゃいいですね。

トニー:昨日は7,700歩くらいで5.2km。その前は1万4,000歩で、9.7kmでした。日によって結構ばらつきがありますね。

牧:それでいいんです。毎日きっちり1万歩じゃなくていい。そうやって日ごとの積み重ねで見ていくことが大事なんです。

トニー:なるほど。

牧:ただ、これを毎日やるのは現実的には難しい人も多い。だから大事なのは、「一気に100分歩く」ではなくて、10分を積み重ねることなんです。例えば、朝に10分、昼に10分、帰りに20分。それを積み上げていけばいい。連続でなくても、トータルで1万歩いけば十分効果が期待できます。

トニー:それならできそうな気がします。

牧:むしろ医療としても、「いきなり理想を目指す」より、「続けられるラインを積み上げる」ほうが、結果的に効果が出やすいんです。

 

筋トレは「投資」。筋肉は代謝を変える

牧:ここで大事なのが、無酸素運動の考え方です。

トニー:筋トレですね。

牧:はい。例えばスクワットを100回しても、消費カロリー自体はそれほど大きくありません。

トニー:きついのに。

牧:でも、ここがポイントで。無酸素運動は「カロリーを消費するためのもの」ではなく、「筋肉を増やすためのもの」なんです。

トニー:筋肉を増やす。

牧:筋肉が増えると、基礎代謝が上がります。つまり、何もしなくても消費するエネルギーが増える。

トニー:それは大きいですね。

牧:そうすると、同じ1,500kcal食べても太らなくなる。あるいは、もう少し食べても維持できるようになる。

トニー:さっきの話でいうと、「貯金ができる」感じですね。

牧:まさにそのイメージです。

トニー:なんか、ここまで聞いていて思ったんですけど、急に話が明るくなってきましたよね。「しめじ」(第2回)の話を聞いたときは、「どれだけ恐ろしい話なんだ……」って思ってたんですけど。

牧:怖いですよね。

トニー:でも今、カロリー消費と食べる量の関係が見えてきて、「こうすればいいんだ」っていう道筋が分かるというか。無酸素運動で筋肉がついたら代謝が上がって、「貯金ができる」っていう話も、すごく面白いなと思って。これ、何かの授業で教えたほうがいいレベルですよね。予防医療そのものだなって思いました。

牧:まさにそうなんです。

トニー:やっぱり、こういうロジックが分かると、行動も変わりそうですね。

牧:そこが一番大事なところですね。この考え方を知っているかどうかで、日々の選択が変わってきます。

 

運動は「我慢」を減らし、「選択肢」を増やす

トニー:今日話を聞いていて思ったんですけど、自分がやっていた食事の見直しって、医学的な根拠があったわけじゃなくて、ほとんど感覚だったんですよね。

牧:はい。

トニー:糖尿病かもしれないっていう考えのもと、食事を制限して、カロリーを抑えて、体重を落とす。それで体調自体は良くなったし、実際に3ヶ月くらい続けて、かなりコンディションも上がったんです。

牧:実感として変化があったんですね。

トニー:そうなんです。ただ、「じゃあその根拠は何か」と言われると、自分でも説明できなくて。今日こうして話を聞いて、食事で整えて、運動で使う。その両方があって初めて成り立つんだなと、すごく腑に落ちました。

牧:そうですね。

トニー:無酸素運動で筋肉をつければ代謝が上がる。そうすると、食べられる量も増える。つまり、「制限する」だけじゃなくて、「維持するか、さらに良くするか」を自分で選べる状態になるってことですよね。

牧:その通りです。

トニー:これってすごく大きいなと思っていて。結局、今までは怖さから引き算していたけど、本当は「どうやって選択肢を増やすか」なんだなと。

牧:いい視点ですね。

トニー:逆に言うと、それができるのは、まだ健康なうちだけなんですよね。状態が進んでしまったら、選べること自体が減ってしまう。

牧:はい。だからこそ早い段階が大事です。

トニー:だから今のうちに、食事・睡眠・運動を生活の中で整えていくことが重要なんですね。

牧:まさにそこです。

***

食事を整えること。そして、体を動かすこと。どちらか一方ではなく、その両方が揃ったとき、初めて「コントロールできる状態」が生まれる。

それは我慢ではなく、選択肢が増えていく感覚でもあります。

次回は、その先にある「継続」の話へ。どうすれば無理なく続けられるのかを考えていきます。

(対談 第6回(最終回)につづく)

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